『メイスン&ディクスン』刊行記念トークイベントの感想

真珠子さんの個展の翌日は柴田元幸さんと伊藤聡さんによる、トマス・ピンチョンの『メイスン&ディクスン』刊行記念トークイベントにお誘いいただきました。


私、柴田さんにはたいへん個人的な、微妙な感情を抱いておりまして。
本当に個人的すぎる話になるのですが、ええと、私は「村上春樹が好きだ好きだ大好きだ! 男として、性愛の対象として!」と常日頃からしつこく言ったり書いたりしているのですけども、そういう過剰な愛情のせいで柴田さんには「村上春樹と仲良くしやがって! 共著とか出しちゃって! くっそう、私の方が村上春樹好きなのに!!」という嫉妬心をどろどろ言わせておりまして、そのせいで「柴田さんすてき! 大好き! 濡れる!」みたいなテンションになりきれない部分があったのです。
(同様の感情を安西水丸さんにも抱いていますが、村上春樹の奥さんに嫉妬しはじめると本気で虚しくなってくるので、そこらへんは考えないようにしています)


とはいえ柴田さんの選ぶ小説も翻訳も好きなわけだし、なにせ村上春樹と親交の深い人なわけだから、実際会ってみたら村上春樹への岡惚れのために柴田さんを敵視していたことが恥ずかしくなるようないい人に違いなくって、そして私は、私ってどこまで醜いのかしら、こんなんでは村上春樹に嫌われてしまう! ときっと落ち込むことになるのだろうと、会う前からあらかじめ落ち込んでいたのです。
実際に柴田さんのトークショーを聞いて、お話させてもらえたりなんかしたら予想以上にいい人で、私ってどこまで醜いのかしらと落ち込む暇もなく「柴田さんすてき! 大好き! ナイス半ズボン!」と桃色脳髄で思いました。私ってどこまで愛に溢れているのかしら! これで村上春樹の愛人にまた一歩近づいた!!


打ち上げでは、柴田さんの朗読がイカしてたこと、柴田さんの訳した小説の中ではポール・オースターの『最後のものたちの国で』が一番好きなこと、中でも前半が好きなことと前半が好きすぎて後半を読むと傷ついてしまう話をして、柴田さんからは『最後のものたちの国で』は前半が好きな人と後半が好きな人に別れるという話、柴田さんも前半がお好きだという話、ちょっと前に自宅に本棚という書庫というかを作って本を作家の名前順に並べて嬉しい話、家にクーラーがないという話、そのせいで一日に何度も水シャワーを浴びてる話、最近ビール派からワイン派になったお話などなど伺いつつワインを飲みました。



それから柴田さんにサインもいただきましたよ!
「お名前は?」と聞かれて「なゆか、でお願いします!」と答えたら、サインの横には「なゆかさま」と書かれてました。
なゆかさま……。
フルネームならともかく、ファーストネームにだけ「さま」を付けると、妙な主従関係を想像してしまいますよ元幸さま……。


私は基本的に田舎の子だし、いまだに帰り道はヨモギを摘みながら歩いて、家に帰って餅に混ぜ込むような精神性がしつこく根を張っているせいか、こうやって会いたい人に会ったときの感動を言葉にすると「ああ私、いま、東京にいるのですね」に集約されてしまいます。